それはリオン・カイル・ルカとが一緒にクエストに行った時のことだった。



「うわあああ!!」

「カイル!」
「前に出すぎだ、馬鹿が!」


単身敵の前に出て行ったカイルが思い切りカウンターを喰らってしまい、後方まで吹っ飛ばされた。

ちなみに今日は前衛三人とクエストに来た為、はクラスチェンジで僧侶になっている。





「待って、今回復を……」

、危ないよ!!」
「え?」



カイルの事しか頭に無かったはルカの声でようやく自分の状況に気がついた。
自分の背後に忍び寄る影、トレントが今にも自分に襲い掛かろうとしていたのだ。




僧侶と言うクラスは前衛に出ることが無い代わりに戦士と比べて防御力が格段に下がる。
カイルが喰らった一撃と同じ威力のものをが喰らえばダメージはその倍来る。



「ぐっ!!」


!!!…この…
魔神滅殺閻!!!







リオンの一撃が決まり、戦闘は終了。
ルカとリオンは急いで二人に駆け寄った。













「っ…いてて…あれ、俺……?!どうしたの!?」


先に吹っ飛ばされたカイルがようやく傍で倒れているに気がついた。
ぐったりと横になっている彼を見て、血の気が下がり肩を揺らして起こそうとする。



「待て!!頭を打っているかもしれないんだ!迂闊に揺らすんじゃない!」
「り、リオンどうしよう…!!が…が!!」
「落ち着いて、カイル。大丈夫?」


ルカが声を二・三度かければは身じろぎしゆっくりと目を開けた。



「…っ…あたたた…。失敗失敗…」
!ごめん…俺が…ちゃんと守れなかったから」
「カイル…。大丈夫だって、ほらもうなんともないだろ」



今にも泣き出しそうなカイルに笑顔で答える


けれど、それでは納得しない者がいた。





「全然大丈夫ではない!!」



リオンの怒号に三人は肩を震わせた。





「カイル!お前が一人突っ走ったお陰でが負わなくても良い傷を負ったんだぞ。お前は周りの者を気にかけてやることすら出来ないのか!」
「…ごめん…」
「一人が勝手な行動を取ればそれだけ他に迷惑が行くんだ!少しは頭を使え!」

カイルはすっかり落ち込んでしまった。
それを見かねてが助け舟を出そうとする。


「リオン、カイルは反省してるよ。それ以上言わなくても…」


「お前もお前だ!」



矛先が自分に回り、身を竦めた。





「戦闘中だと言うのに回復役が冷静な判断が出来ないでどうする!全滅しても不思議じゃなかったぞ!」
「そ、それは…悪かった。ごめん」
「大体お前はカイルに甘すぎる。こいつにはコレ位言わなければ解らないんだ。むしろもっと言ってやっても良いくらいだ」
「でも頭ごなしに怒鳴ったって駄目だろ。本人に何が悪かったのか気付くように促したって…」
「コイツにそんな事が出来るとは思えんな」




カチン





あまりの言い様にの堪忍袋の緒が切れた。






「…カイルの事馬鹿にするなよ。リオンはそりゃ賢いかもしんないけどだからって人を見下して良いわけじゃない!」
「なっ…!だから何故お前はカイルの肩ばっかり持つんだ。大体僕はな……」


「あ、あの二人共…?」
「論点がずれてる気がする……どうしよう」




カイルとルカを放っておいて、とリオンの言い争いはヒートアップしていく。
段々が強気になり、徐々にリオンが押され始める。
まさかが自分にこれ程反論してくるとはリオンも思っていなかったのだろう。








「オレが怪我したのはオレの不注意!カイルの所為じゃない!」
「今回のお前は後衛なんだから前衛がしっかりしてなければ話にならんと言ってるんだ!」
「あーそうですか、オレが後衛だからいけないってこと?つまりオレには回復役は向かないって言いたいんだね」
「そうは言っていないだろう!どうしてそうなる!?」






あまりに血が昇りすぎて段々と屁理屈が増えてきたような気がする。
が誰かとこうして喧嘩する光景自体初めて見るルカとカイルでは止め方が判らない。
大人なら冷静に止められたかもしれないが、まだ15歳の二人には無理な話だった。






「カイル…どうしよう。此処でいつまでも喧嘩させるわけにはいかないよ」
「うん…。此処ダンジョンだしね…。でもあの二人に割って入れないよ…」




どうしようかと二人が悩んでいる時、空気が変わった。







「もういいよ!こんなんじゃクエストやっても上手くいきっこないし、今日は解散!ごめんね皆無駄な時間取らせて!」

「こ、こら何処へ行く!?」

「後衛として役に立つよう特訓してきてやるよ!安心して、一人でダンジョンなんか行かないから!」




吐き捨てるように言い逃げたは街の方へ走っていった。
慌てて三人も追いかける。





















街に着いてもの姿は無かった。

特訓、と言っていたがダンジョンには行かないと言っていた。
では何処へいるのだろう。


リオンはそわそわと落ち着かない、カイルはあわあわとどうすれば良いのか判らず半泣き状態だ。
ルカはを探そうと思い、取り合えず聞き込みに行く事にした。








「あ、あのぅは戻ってきてないですか!?」




最初に行ったのはギルド、アドリビトム達が多く集う場所だ。
此処ならが来たかも知れないし、の行方を知っている人がいるかもしれない。





ならアンタ達と行ったんじゃなかったっけ?」

ガルドを数えながらルーティがそう答えた。
ルーティはがクエストを受注していた所を見ていた人物、つまりが此処へは来ていないことを証明する。

がっくりと落ち込んだルカは次に人が集まる宿屋へ行く事にした。





「誰か、を見なかった!?」





さんなら見てませんよー」

「此処には来てないぜー」

「てかお前等一緒だったんじゃないのか?」






やはり返事は否。
街に戻った筈なのは間違いないのに誰も見ていないと言う事はおかしい。


リオンは段々青い顔になる、カイルはもう涙が零れそうだ。






「おいおい、どーしたんだよお前等」

「今にも世界の終わりみたいな顔してるぞ」

「何かあったの?」



現れたゼロス・ガイ・アンジュに尋ねられルカは事情を説明する。
全て話した後、ガイは苦笑しゼロスはあちゃーと顔を手に当てた。
アンジュはよしよし、とルカの頭を撫でた。



「ルカ君一番苦労したわね」
「こりゃ難しいぜ〜?どっちも正論で、どっちも間違ってるもんなぁ」
「ああ、お互い心配し合ってるからぶつかるんだろうけどな」



「お前達に何が解る。アイツは……僕の気も知らず」




「だからどっちも正論でどっちも間違ってるって言ってんだよ。いいかあ?

 お前は後衛のが安心して戦えるように守ってやるのが当然って言ってんだろ?だから勝手に突っ走るカイルを怒った

 でもってカイルはを守ろうと力入れすぎちまったんだろ?

 は後衛だからって特別視して欲しく無いんだろうな。普段が前線なだけに」


「けど、リオンは少し言い方がきつかった。前に出る癖が治らなければまた怪我するのはカイルだから、それを解ってほしかったんだろ?
 
 も慣れない回復役でパニクってたんだろう。だからいつもと違う状況の判断が遅れた」






ルカは感動した。
少し年上の彼等はやはり自分達とは違って大人な部分があり、冷静に諌められる。
リオンも何も言わない所を見ると、ゼロスとガイの言い分が正しいことを認めてざるを得ないのだろう。





「多分…君なら街の外ね。彼のお気に入りの蛍火の草原か星流れの泉かも」
「まあ頭が冷えれば戻ってくるでしょーよ。そしたら坊ちゃん謝っとけや」
「……フン、貴様に言われなくても解っている」





































「……やっぱりオレまだレベル低いんだ…。詠唱にこんなに時間がかかるなんて…」


アンジュの考察通り、は星流れの泉にいた。
泉に映る自分の顔を見ながら座り込んでいた。


メイスを握り締めながら溜息を吐く。
普段、ティアやミントらと言った僧侶達を見ていれば自分の実力の低さがよく判る。



「こんなんじゃ…治してあげる前に自分が敵のターゲットになっちゃう…。ハア…」



剣士のレベルしか上げてこなかった自分が悪いのだが、いきなりの実戦で自分一人が回復役を担うなど思い上がりも良いとこだとは自分を殴りたくなった。
三人にも迷惑をかけて、リオンと喧嘩までしてしまった。
売り言葉に買い言葉と言うけれど、あんなに言うつもりじゃなかったのに。




「!リオンだって言いすぎなんだ…!………でもオレも言いすぎた…」




水面の自分の顔をメイスで叩く。


謝ろうとは思うのだが、如何せんさっきの今じゃ顔が合わせられない。
それに特訓だと言って出てきたのに何も成長してないんじゃあまた言い争ってしまいそうだ。




「…どうすればいいんだろ……」









「迷いがあっては、どうにもならんぞ」


「!」


聞き覚えのある声に勢い良く振り返った。
先程まで言い争いをしていた相手と同じ声、けれど彼より落ち着いたトーン。


見えたのはピンクのマントではなく、黒衣。





「…ジューダス……?」


「僧侶は集中力を高めなければ話にならん。迷いがあればそれだけ術の発動も遅れる」





普段、あまり姿を見せない彼が何故此処にいるのだろうか。
仮面の奥の瞳は穏やかにを見つめていた。




「どうして…此処に?」

「落ち込むなどと似合わないことをしている間抜けの顔を見に来ただけだ」

「んな…っ…オレだって落ち込む時くらいあるっての」

「フフ、そうやっている方がお前らしい。落ち込むより出来ることがあるんじゃないか?」

「え?」





「僕で良ければ特訓とやらに付き合ってやる。それで少しは腕を磨け」


「………ジューダス……っさんきゅ!!」




ようやく笑ったに、気付かれないようジューダスも仮面の奥で柔らかに微笑む。




は気付いていなかったが実はジューダスの方が先にこの場所にいた。
だからが言っていた独り言も全て聞こえていたし、それで大体の事情も理解している。



「アイツも僕と同じで…大概不器用だからな」

「へ?何か言った?」

「何でもない。それより、僕が戦闘を終える前に術を唱えられるようにくらいはなれ」

「そ、そこまで遅くないやい!!!」




























「…遅い」


「あらーも意外と頑固だったりー?」



辺りは夕暮れ、もうすぐ夜が来る時間。
なのに、はまだ戻ってきていなかった。

リオンはと言えば実は街の入り口前でずっと待っていた。
最初は宿屋と街の入り口を15分間隔で往復していたのだが、日が沈みかけてからはずっと此処にいる。



そんなリオンの様子を見に来たゼロスも思わず苦笑してしまう。
待ちぼうけを食らわされているリオンを見ると、笑ってやるよりもまず同情が生まれてしまうからだ。



『コイツ友達多いタイプじゃねーもんなあ…』



ふと街の外に視線をやれば、遠くに見覚えのある姿が小さく見える。



「お、帰って来たぜ」

「!」



段々と近づいてくる姿は紛れも無く、だ。
リオンはソワソワしていた様子を隠すように冷静を装う。



「遅かったな。何処をほっつき歩いていた」
『またそんな喧嘩腰で…。おろ?でもはもう機嫌直ってるみてーだな』



「ごめんごめん、星流れの泉に行ってた。それよかリオン!明日もう一度クエスト行くぞ!」
「な、なんだいきなり」
「特訓の成果見せてやるよ。今日と同じメンバーで、同じクエストだからな!」


それだけ言うとは宿屋へと向かって行った。
残されたリオンはポカンと立っていることしか出来なかった。



『おーおー、面白くなりそうだな』



ゼロスは放心状態のリオンを引き摺って、その場を後にした。



























―――次の日

同じクエスト、同じメンバー編成の達が昨日と同じダンジョンにいた。

後、ゼロスとガイとアンジュも一緒だ。




「何故お前等までついてくる?」

「一応関わったら最後まで見届けさせてくれよ」
君の特訓の成果も見たいしね」
「ま、俺様達のことは空気だと思って。行ってらっさい」












戦闘が始まり、が落ち着いて詠唱出来るように前に立つ三人。
昨日のように突っ走ることは流石に無かったがごり押し一辺倒のカイルが敵の反撃を食らって倒れた。




「また…あの馬鹿!」
「カイル!」





「ヒール!!」





駆け寄ろうとしたルカ達より早く、の治癒術がカイルに届いた。
昨日とは段違いの対応にリオンは目を見開く。





「三人共、行くよ!
フィールドバリアー!!


三人同時にかかる防御呪文、これはかなり高等レベルの術だ。
たった一日しか経っていないと言うのにこの成長振りには全員が驚いた。






っ危ない!!!」



動きの素早い狼のモンスター、ウルフが前衛の隙を伺ってへと突進していく。
これには流石にガイやゼロスも剣を抜きそうになったが……





「流連弾!!!」



近づいて来たウルフには思い切り前衛技を叩きつけた。
そして素早くバックステップで下がり、距離を置く。






「………これでも喰らえ、
レイ!





閃光が敵全体に降り注ぐ。
この一撃で戦闘は終了した。



















「…、すっごーい!!いつの間にそんなに強くなったんだよ!」
「へへ、オレもやる時はやるってこと。どう?リオン」




カイルとハイタッチをした後、リオンに向き直る。
リオンは視線をそらしながらも、まだ驚きを隠せない態度で答える。



「確かに…昨日とは比べ物にならない成果だ。一体何をどうした?」


「まあ一番はこれのお陰なんだけどさ」




ごそっとが懐から取り出したのはミスティシンボル。
詠唱時間が半減する装飾品だ。




「でも君の対処も良かったから、一概にそれだけのお陰じゃなくて君の実力でもあるわよ」

「ああ、謙遜しなくても良い。それと昨日は――」


「ほんと!?ありがと。昨日結構扱かれたからかな」




昨日の事を謝ろうとしたリオンだったが、の一言により言葉が止まった。




、誰かといたのか?」
「あ、うん。オレが星流れの泉に行ったらジューダスがいてさ。二人でずっとダンジョンで戦闘してた」





ジューダスと  



二人で 
 







「ええ!?じゃあ、あれからずっと?」
「うん、お陰でレベル結構上げられたよー。ジューダス色々厳しくてさ。でも最終的にミスティシンボルくれたのもジューダスなんだよ」





嬉しそうに言う、対照的に機嫌が降下していくリオン。
明暗の差がどんどん広がっていく。


いち早くその雰囲気を察したガイが楽しそうに昨日の事を話すを止めようとしたが、時既に遅し。








「僕は帰る!!!」




「え?リオン?どーしたの、いきなり」
「リオン!?」



ずんずんと先にダンジョンを出て行くリオン、それを追いかける
ルカとカイルも急いで後を追いかける。




残された大人組は揃って溜息を吐いた。





「よりにも寄ってジューダスと特訓か…」

「タイミングと相手が悪かったな」

「気付かない君の鈍感さも凄いわね」










二つの気高き薔薇